2024年度
筑波大学 地域医療教育学講座
事業報告書
目次
神栖市における医療システムの強化実績
医療体制の強化・維持
2024年度は上半期は濵田修平、佐藤瑠美、鈴木潤一、川瀬由華の4名体制、下半期は更に巴悠記が加わり、常勤医は5名体制で診療を行った。阪本直人、鈴木將玄の非常勤医2名合計7名の筑波大学の臨床医による体制を維持した。これにより、入院診療に関しては全国的な傾向である看護師不足が神栖済生会病院でもみられ、その影響で入院病床の縮小があったものの、2023年度と同程度の入院患者を診療した。診療拡大を行うことができたのは在宅医療である。神栖市内において当院の在宅緩和ケアが充実し、神栖市内で終末期における在宅医療提供機関と言えば「神栖済生会病院」と国保旭中央病院、国立がんセンター東病院、筑波大学附属病院等のがん治療を積極的に行う医療機関に認識いただいた結果、在宅緩和ケア目的で紹介頂く患者さんが急激に増加し、在宅看取り数が過去最大を更新することができた。維持するとともに病院全体の機能維持に欠かせない感染対策や医療スタッフへの教育活動を行うなど、病院全体、およびコミュニティへの貢献をした。
在宅医療の推進
保健・医療・福祉連携協議会を通じた普及・連携強化
2024年度も、下記に示すような従来行ってきた事業を継続して行った。
- 在宅医療に取り組む医療機関及び後方支援医療機関における病診・診診連携強化を図る会議の開催
- ICT(施設を超えて情報共有を可能にする医療者専用のシステム)を用いた多職種での患者情報共有
- 多職種を対象とした在宅医療の勉強会の開催
- 地域住民を対象とした在宅医療の勉強会の開催
さらに、2023年度下半期より、市内外の訪問看護ステーションと訪問診療を行っている患者さんの情報意見交換の機会として毎週水曜日17時よりインターネットのビデオ会議システムを用いた「神栖在宅医療グランドカンファレンス」の開催をしている。気兼ねなく参加でき、職種関係なしで忌憚ない意見を出し合う場として参加者より好評を得ている。
神栖済生会病院・土合クリニックにおける在宅医療の実績
概要
週平均で5コマの訪問診療を行い、患者の疾患別では、末期がん患者、神経難病患者、慢性閉塞性肺疾患等の慢性疾患により通院困難な高齢者、小児難病患者等幅広く診療している。前述の『ICTを駆使した多職種連携の仕組み作り』の成果として、日々の看護・介護や診療内容のリアルタイムでの情報共有が実現した。その結果、神栖済生会病院と済生会訪問看護ステーションかみすをはじめとした地域の多職種との連携がさらに強化され、より質の高いケアにつながっている。なお本システム導入時には鹿嶋医師会にも協力を頂き徐々に神栖市内で利用する事業所が増えている。現在では神栖済生会病院以外でも様々な事業所が参加しており、多職種間のスムーズな連携につながっている。
診療実績
2024年度も在宅看取りの推進をテーマに神栖市内を中心に在宅医療を引き続き提供した。診療実績:延べ人数94人、(うち新規導入人数45人)、自宅看取り数31人/年(神栖済生会病院24名、済生会土合クリニック11名)と過去最多を更新した。神栖済生会病院での年間在宅看取りが20名以上となったことで、診療報酬上の「在宅緩和ケア充実加算」が復活し、2024年5月より算定を始めた。
土合・波崎地区への在宅医療体制の拡大の為に、神栖済生会病院と済生会土合クリニックでの連携をさらに強化を行っている。かみす中央メディカルクリニックとの連携(連携機能強化型在宅療養支援病院1の施設認定を取得)もすすめた。また、済生会土合クリニック、かみす中央メディカルクリニックの医師への在宅医療事例に関するアドバイスも実施した。
土合クリニックにおいては、2024年度は、延べ人数26人(うち新規導入人数10人)、自宅看取り3人、訪問診療における診療報酬1300万/年と少しではあるが、収入源の柱になりつつある。
2025年度に向けて
当院の訪問診療は、在宅看取りを希望する患者の増加に伴い、周辺医療機関からの依頼が増え、鹿行地域における在宅療養支援医療機関の基幹病院としての位置づけが強まりつつある。さらに、鹿嶋市・大野診療所の柳町知宏医師との連携を深め、地域の在宅医療支援に努めている。しかし、現在の神栖市内での在宅医療提供体制では、まだ需要を満たしきれていないのが現状である。
この課題に対応するため、2024年度下半期より総合診療科の常勤医を5名に増員し、訪問診療体制のさらなる充実を図る予定である。また、在宅医療に関心を持つ院内の若手病棟看護師複数名が訪問診療に同行し、病棟とは異なる現場での学びを始めている。
同時に、市民や医療介護福祉関係者向けに、在宅医療へのアクセスに関する課題に対し、アクセスを容易にすべく、窓口や情報提供の工夫を進めている。
これらの取り組みを通じて、在宅医療の質とアクセシビリティーの向上を目指し、地域住民に寄り添った医療サービスの提供を強化していく。引き続き、在宅医療専門研修プログラムを有する域内唯一の機能強化型在宅療養支援病院として、鹿行地域の在宅医療を牽引し、その取り組みをさらに強化していく予定である。
入院体制の拡充
主には緊急入院の患者が対象であり、疾患も脳血管疾患系、心血管系、代謝・内分泌系、感染症等幅広く診療している。訪問診療患者の緊急入院やレスパイト入院にも対応した。また、他院からの緩和ケア依頼も増加傾向であり、末期がん患者の疼痛緩和目的、療養環境調整目的の入院も多かった。病棟からの退院支援に当科の訪問診療を利用する例も増え、神栖済生会病院の地域包括ケアシステムの構築の一助となった。2024年度の総合診療科入院担当患者数は前年度並みの420名であった。看護師の離職に伴う病院全体としての運用病床減少が大きく影響している。
緩和ケア外来
当該地区では緩和ケアを専門的に提供している外来が存在していなかった。在宅緩和ケアで培った知識を用いて、広く緩和ケアを必要としている患者・家族へ役立てる診療を行いたいと考え緩和ケア外来を開設した。現在は対外標榜を行っていないが、コンスタントに筑波大学附属病院、国際医療福祉大学成田病院、国立がんセンター中央・東病院など三次医療機関から紹介があり、外来・在宅で疼痛コントロール、意思決定支援、在宅看取りを行った。2024年度の診療を通じて、これらの3次医療機関、旭中央病院、土浦協同病院などの地域中核病院から神栖における在宅緩和ケアが実施可能な機関としての神栖済生会病院が認知されるようになってきている。
救急体制の強化
2013年度以降に生じた鹿島労災病院を中心とした近隣病院の常勤医師の大幅減少。そして、鹿島労災病院の廃院(2018年度末)、さらには土浦協同病院なめかた地域医療センターの診療体制の大幅な縮小(病床数を199床から49床に縮小、診療時間外の救急患者受け入れの休止)と、鹿行地区の医療状況は深刻化の一途をたどってきた。
これに対応すべく、筑波大学総合診療科の常勤医は2011年度から本格的に入院患者、救急患者を積極的に多く受け入れた。2021年度には、救急科医師が着任したことで、日中の救急患者の初期対応を担う体制が整い、救急患者の受け入れ数の向上とともに、初期対応から入院までがよりスムーズに行えるようになった。夜間については、引き続き総合診療科が全科当直を行い、救急車および救急患者の診療に対応。2022年度は2,365台の救急車を受け入れ、診療報酬上の地域医療体制確保加算における施設基準の達成に貢献。2023年度も引き続き、日中も救急隊からの収容要請や緊急入院に対応し、当院で対応できる2次医療の範囲で完結できる患者を受け入れている。特に総合診療科では、当院に常勤専門医のいない呼吸器系疾患、代謝系疾患、あるいは合併症を多く併発している高齢者の複雑事例などの入院患者を受け持ってきた。病院全体として年間2,000台以上の救急車応需を行っており、鹿行地域の救急病院としての機能維持に貢献している。
新型コロナウイルス感染症への対応
パンデミック中、発熱外来から休日を含めた全てのCOVID-19陽性者の診療(中等症以下の入院診療、陽性患者メディカルチェック)までを担ってきた。同時に、濵田医師が、Infection Control Doctorとしての豊富な経験を活かし、感染管理チームのリーダーおよび、院内感染対策チームの委員(副委員長、委員長と歴任)として、院内感染対策や地域のクラスター対応に参画した。第7波の2022年8月には、2つの病棟クラスター発生時に病院全体の感染管理に尽力し、病床コントロール、感染患者の治療に指導的立場として尽力した結果、クラスター発生に伴う死者を1名と最低限に抑え込みつつ、同月内の短期間で収束させた。この経験を基に第8波では、鹿行地域の病院において唯一クラスターを発生させなかった病院となった。
2024年度も引き続き濵田医師が感染対策委員会の委員長を務め、地域の感染対策向上のためのカンファレンスを主導し、感染災害対策合同訓練、地域の病院間連携カンファレンスを年8回開催している。
初期研修医・専攻医教育を通した医師確保・医療の質の向上
当院は、筑波大学附属病院を基幹病院とした「つくば家庭医・病院総合医プログラム」の関連施設として、総合診療専門医および日本プライマリ・ケア連合学会認定 新・家庭医療専門医の取得を目指す専攻医の受け入れを行っている。また、濵田修平をプログラム責任者とする「神栖在宅医療フェローシップ」が、日本在宅医療連合学会より施設認定されている。本プログラムで、2年間週2日の訪問診療従事を通じて在宅医療専門医の受験資格が取得可能である。当院における研修の特徴は、広範囲は診療の場を活かし、多職種とも緊密に連携しながらシームレスな医療を実践しながら学べる点である。また、地域住民・多職種・行政との協働で地域ケアの活動を行うこともできる。これまでにも、常勤指導医のもとで専攻医2名が研修を行い、いずれも専門医を取得ないし、取得予定である。
2024年度は川瀬由華医師、巴悠記医師が後期研修最終年度の研修を当院で行い、専門研修課程を修了した。
2024年度在籍の医師の3名は引き続き当院での活動継続を強く希望し、2025年度も勤務を継続することになった。
後期研修修了後のサブスペシャリティ専攻として神栖在宅医療フェローシップでの研修開始を佐藤瑠美医師が開始した。
市民・地元企業協働型の医学生教育を通した医師不足対策
本学の指導教員が、地域医療の最前線で自らも実践しながら、現場で行政、地元市民、NPO、地元企業などと協働しながら医学生に直接指導を行っている。これにより、従来の大学内だけの教育では触れる機会のなかった地域医療教育を実現。これは、医学生が将来の医師像を考えるきっかけを作り、貴重かつ必要不可欠な機会となっている。
様式第8号(第8条関係)の(2)医学生活動事業も合わせてご参照ください。
1)臨床・コミュニティケア実習(本学医学類5-6年生向け)
2024年4月-5月、2024年10月-2025年3月にのべ64名、22週間実施。
実習コーディネート業務
医学生の神栖市内における地域医療実習のコーディネート業務:実習予定調整、オリエンテーション、実習中の引率・指導・監督、実習終了後の振り返り、実習依頼施設との連絡、調整、実習振り返り、実習レポートの評価・フィードバック
具体的実習内容
医療機関および、市内の協力施設等で実習。神栖市を中心とした地域における健康課題とヘルスケア(医療・福祉など)の現状について、地域全体を俯瞰して観察し、考察(地域診断)する。また、実習レポート作成(地域診断レポート、個人レポート)、指導医との議論を通して深める。
協力施設
市内診療所見学実習(鹿嶋ハートクリニック、城之内医院)、異業種帯同実習(株式会社丸や、神栖法律事務所)、地域診断実習、産業医実習(AGC株式会社 鹿島工場、日本製鉄株式会社 東日本製鉄所鹿島地区)、訪問診療同行実習、訪問看護同行実習、訪問リハビリ同行実習、MSW実習、包括支援センター実習、院外調剤薬局実習等
2)早期体験型地域医療実習(本学医学類2年生向け)
神栖済生会病院における多職種帯同実習を延べ8名に実施。
3)異業種帯同・コミュニティケア合宿 ~コミュニティにどっぷり! ちいここ合宿 in かみす~(全国の医療系学生向け)
全国の医療系学生を対象にした合宿を2024年3月2日~2泊3日、2024年6月、2024年10月、2025年3月18日~3泊4日の日程で開催。
『医療系学生が、地元の企業・産業で働く人にも帯同しながら、くらしの理解を深め、コミュニティの魅力と関わり方を模索する』合宿ツアーを神栖市で開催した。青森県、山形県、愛知県、東京都、群馬県、さいたま市など全国から医学生や理学療法学生などの医療系学生たちが参加した。このプログラムの原点は、約15年前から筑波大学の医学生向けに行ってきた「異業種への帯同をきっかけにして、生活者との関係をつくり、”くらし”と”生きる”をより深く考えてゆく」取り組みにある。これまでのノウハウを活かし、ついに全国の医療系学生を受け入れるまでになった。泊まり込みで集まった熱心な学生たちと、彼らを全力で迎え入れた地元の方々の情熱が相まって、とても充実した合宿となった。
協力施設、法人・個人等
神栖済生会病院、矢田部自動車教習所、焼肉・中華レストラン 庄花亭、農業生産法人 株式会社 agri new winds (アグリニューウインズ)、FARMER’S PALLET WINDS BASE、スガヤファーム葡萄屋、でいサービスみなと、一般社団法人波崎未来エネルギー、NPO法人波崎未来フォーラム、地域おこし協力隊 竹中 郁人さん
ヘルスプロモーションを実践できる総合診療医の育成
コミュニティでリーダーシップを発揮することは、WONCA(世界家庭医機構)によれば、家庭医療専門医が持つべき重要なスキルの一つとされています。また、日本ヘルスプロモーション学会の常任理事を務める総合診療医が在籍していることから、その専門的な知見が十分に活かし、神栖市では2008年より、15年以上にわたるヘルスプロモーション活動を展開してきた。この活動では、行政、生活者、患者団体、NPO、地元企業、教育機関(小・中・高校)など幅広いステークホルダーが協力し、地元のヘルスケアシステムの整備や健康課題(健康の社会的決定要因)の解決に向けて取り組んでいる。
特記すべきことは、古くから医学生の教育に市民らが参画している点である。市民が医学生教育に参画することから始まったこの協働体制は、コミュニティの社会課題に共に取り組むパートナーシップへと深化してきた。医学生教育を通じて培われた継続的な協働体制と信頼関係を基盤として、人生会議の開催、医療的ケア児等の家族・サポーターの交流の場づくり、くらしの相談室(ハッチポッチカフェ)の市内巡回など、コミュニティに根ざした市民活動が生まれている。これらの活動は学生や専攻医にとって実践的な学びの場となり、地域医療教育と市民活動が互いに高め合う好循環を生み出している。
近年では、総合診療医の重要なパートナーでもあるチーム・コミュニティナースの育成にも力を入れており、市民も参加したチームとして、地域のヘルスケアの基盤強化に貢献している。これにより、まちなかでの相互おせっかいの文化を醸成し、ワクワクや生きがい(well-being)やコミュニティにおけるケアの総量の向上を目指している。
このように経験豊富な指導医、フィールド、協働するチームのすべてが揃った恵まれた環境で、自らヘルスプロモーションを実践しながら学ぶことができる全国でも類を見ない学びの場となっている。
様式第8号(第8条関係)の(1)総合診療医活動事業も合わせてご参照ください。
実施テーマ
2024年4月~2025年3月の期間を通して実施:
- 市内巡回型くらしの相談室(ハッチポッチカフェ)
- 医療的ケア児等の家族・サポーターの交流の場づくり
- チーム・コミュニティナース育成講座
イベントとして実施:
- 全国医療系学生向け合宿:2024年10月に1回、2025年3月に2回実施
- 白砂青松再生プロジェクト(松の植樹)に参加。2025年3月
- 神栖済生会病院祭(オータムフェスタ)~市民と共創した支えあいの場づくり~。2024年10月
- 全国コミュニティナース交流会の開催(コミュニティナース研究所後援)。2024年10月
2025年度にむけて
2025年度は、上半期は濵田医師、佐藤医師、川瀬医師、巴医師が引き続き診療に当たり、新たに都田医師、鈴木綾香医師が後期研修医として赴任する予定で常勤医6名体制に診療体制が拡大する予定である。下半期は更に東京医大茨城医療センターより総合診療・家庭医療専攻医が1名、鈴木綾香医師と交代で筑波大学附属病院より後期研修医である野崎医師が加わり、常勤医7名体制となる予定である。これまで5年間、神栖市における本学学生実習のコーディネートで中心的に貢献してきた鈴木将玄医師は異動となった。後任として神栖市出身である前島拓矢医師が学生実習、当地における診療に従事する予定である。
現状の診療体制を維持させていくとともに、今後の更なる発展のために、新たに中小企業に勤める労働者の健康診断を通じたコホート研究、コミュニティナースの活動を通じた病院改革やコミュニティケアに取り組むことで鹿行地域の住民に対して与える影響についての研究に取り組む予定である。特にコミュニティケアについては積極的な展開を予定している。神栖済生会病院では、済生会ソーシャルインクルージョン活動の一環として、独自にコミュニティナースの雇用・育成を行う。看護師の多様な働き方を提案し、志の高い看護師の雇用を推進することで、医療体制の維持・強化にもつながり得る。また、コミュニティナースとの協働により、医療が届いていない対象者の発掘やケアの総量を増加させ、地域に根ざした済生会の活動をさらに加速させる。
このような研修・研究環境を創造することで、総合診療医だけではなく、多くの医師・研究者、医療職にとって、研究フィールドとして魅力を感じ、赴任してもらえるような環境作りに注力していきたいと考えている。多くの若手医師・学生が魅力に感じ神栖で働きたいと思ってもらえるようなフィールドを作っていきたい。
添付資料一覧
(1)総合診療医活動事業
1実施した補助事業の内容等
- 神栖済生会病院における、総合診療医としての院外業務:ヘルスプロモーション業務(市内巡回型くらしの相談室、コミュニティナース育成講座等)・・・資料A
- 全国医療系学生向け合宿の企画・運営、学生指導・監督・・・資料Bその2(関連記事:全国医療系学生合宿、オータムフェスタ2024に参加)
- 神栖済生会病院祭の開催:市民と共創した健康イベントとして、2024年10月に実施。企画・立案から参画した。・・・資料C
(2)医学生活動事業
1実施した補助事業の内容等
- 研究室演習学生3名が第3回日本地域医療学会学術集会で発表・・・資料E(第3回日本地域医療学会で最優秀賞を受賞)