これまでの事業報告書

2025年度事業報告書

2025年度
筑波大学 地域医療教育学講座
事業報告書

神栖市における医療システムの強化実績

医療体制の強化・維持

総合診療医の体制(2025年度)

期間常勤医師(人数)非常勤医師
上半期濵田医師ら6名(過去最大)阪本直人・前島拓矢(2名)
下半期濵田医師ら5名阪本直人・前島拓矢(2名)

2025年度は上半期は濵田修平、佐藤瑠美、川瀬由華、巴悠記、都田佑樹、鈴木綾香の過去最大の6名体制、下半期は川瀬由華が離任、野崎周平が加わり、5名体制で診療を行った。また、阪本直人、前島拓矢の非常勤医2名による体制を維持した。

これにより、入院診療に関しては全国的な傾向である看護師不足が神栖済生会病院でもみられ、その影響で入院病床の縮小があったものの、2024年度と同程度の入院患者を診療した。

在宅医療も引き続き強化している。神栖市内において当院の在宅緩和ケアが充実し、神栖市内で終末期における在宅医療提供機関と言えば「神栖済生会病院」と国保旭中央病院、国立がんセンター東病院、筑波大学附属病院等のがん治療を積極的に行う医療機関に認識いただいた結果、在宅緩和ケア目的で紹介頂く患者さんが増加を続け、2024年度に引き続き在宅看取り数が過去最大を更新することができた。維持するとともに病院全体の機能維持に欠かせない感染対策や医療スタッフへの教育活動を行うなど、病院全体、およびコミュニティへの貢献をした。

在宅医療の推進

1)保健・医療・福祉連携協議会を通じた普及・連携強化

2025年度も、下記に示すような従来行ってきた事業を継続して行った。

  1. 在宅医療に取り組む医療機関及び後方支援医療機関における病診・診診連携強化を図る会議の開催
  2. ICT(施設を超えた情報共有を可能にする医療者専用のシステム)を用いた多職種での患者情報共有
  3. 多職種を対象とした在宅医療の勉強会の開催
  4. 地域住民を対象とした在宅医療の勉強会の開催
  5. チーム・コミュニティナースによるシームレスな暮らしのサポート体制の強化

2)神栖済生会病院・土合クリニックにおける在宅医療の実績

概要

2017年に総合診療科が主導して在宅医療を創設してから10年近く運営してきた。週平均で8コマの訪問診療を行い、患者の疾患別では、末期がん患者、神経難病患者、慢性閉塞性肺疾患等の慢性疾患により通院困難な高齢者、小児難病患者等幅広く診療している。

診療実績サマリー(2025年度)

在宅医療 患者実績

指標神栖済生会病院済生会土合クリニック合計
延べ患者数102人35人137人
うち新規導入60人19人79人
自宅看取り数37人6人43人

看取り実績・診療報酬加算

項目内容
自宅看取り合計43人/年(過去最多更新
在宅緩和ケア充実加算 算定再開2024年5月〜(年間看取り20名超のため)
在宅医療充実体制加算 算定予定2026年6月(診療報酬改定時)
※注:年間30名以上の看取り実績、疼痛管理目的での麻薬使用歴があること等が要件
訪問診療 診療報酬(土合クリニック)約1,500万円/年(過去最高更新

連携体制

連携先内容
済生会土合クリニック土合・波崎地区への在宅医療拡大のため、神栖済生会病院と連携強化
かみす中央メディカルクリニック連携機能強化型在宅療養支援病院2施設認定取得
診療実績(神栖済生会病院)

2025年度も在宅看取りの推進をテーマに神栖市内を中心に在宅医療を引き続き提供した。診療実績:延べ人数102人、(うち新規導入人数60人)、自宅看取り数43人/年(神栖済生会病院37名、済生会土合クリニック6名)と過去最多を更新続けている。神栖済生会病院での年間在宅看取りが20名以上となったことで、診療報酬上の「在宅緩和ケア充実加算」が復活し、2024年5月より算定を始めた。2026年6月の診療報酬改定時には「在宅医療充実体制加算」を算定できる予定である。(注:年間30名以上の看取り実績、疼痛管理目的での麻薬使用歴があること等、算定のためには従前の在宅緩和ケア充実加算と比較して非常にハードルが高く、この加算を算定できることが在宅医療提供の中心医療機関であることの証明となる)

土合・波崎地区への在宅医療体制の拡大の為に、神栖済生会病院と済生会土合クリニックでの連携をさらに強化を行っている。かみす中央メディカルクリニックとの連携(連携機能強化型在宅療養支援病院2の施設認定を取得)もすすめた。また、済生会土合クリニックへの在宅医療事例に関するアドバイスも実施した。

診療実績(済生会土合クリニック)

2025年度は、延べ人数35人(うち新規導入人数19人)、自宅看取り6人、訪問診療における診療報酬はおよそ1,500万/年ではあるが、こちらも過去最高を更新している。

ICTを駆使した多職種連携

医療従事者向けの完全セキュアな患者情報共有システム「メディカルケアステーション(MCS)」を総合診療科主導により2017年に導入し、神栖市の広域において多職種が連携できる基盤を整備し、長年運営している。これにより、日々の看護や介護、診療内容などの情報をリアルタイムで共有することが可能となった。なおシステムの導入にあたっては、鹿嶋医師会の協力を得ている。この結果、神栖済生会病院や済生会訪問看護ステーションかみすをはじめ、地域の多職種間連携がさらに強化され、より質の高いケアの提供につながっている。

また、神栖済生会病院のみならず、神栖市内で本システムに参加する事業所が増加しており、多職種間の連携はこれまで以上に円滑なものとなっている。

2023年度下半期より、市内外の訪問看護ステーションや訪問診療を利用する患者ケアについて情報や意見を交換する場として、毎週水曜日17時からビデオ会議システムを使い「神栖在宅医療グランドカンファレンス」を開催している。このカンファレンスは、職種を問わず気軽に参加でき、職種の垣根を超え、顔を見ながら自由に意見を言い合える場として、参加者から高い評価を得ている。

チーム・コミュニティナースによるシームレスな暮らしのサポート

2024年4月に施行された「孤独・孤立対策推進法」や、団塊の世代が75歳以上となる「2025年問題」を背景に、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供できる地域包括ケアシステムの構築が急務となっている。

神栖済生会病院では、こうした社会ニーズにいち早く応えるため、済生会ソーシャルインクルージョン推進計画の事業費を獲得し、総合診療科が中心となって「コミュニティナース」の雇用・育成体制を2023年に確立。2025年度は病院雇用コミュニティナース3名体制で運用しており、病院と地域をシームレスにつなぐリンクワーカーとして活動の幅を広げている。具体的な支援としては、退院直後の生活再建サポートや既存制度の対象とならない方への声掛け・訪問活動などに注力している。重症化する前の早期段階から住民の生活を支えることで、誰もが住み慣れた神栖市で安心して長く暮らし続けられる地域社会の実現を目指している。

これらの取り組みが高く評価され、「日本在宅ケア学会 在宅ケア イノベーション大賞」を2025年受賞。

3)2026年度に向けて

当院の訪問診療は、在宅看取りを希望する患者の増加に伴い、周辺医療機関からの依頼が増え、鹿行地域における在宅療養支援医療機関の基幹病院としての位置づけが強まりつつある。さらに、鹿嶋市・大野診療所の柳町知宏医師との連携を深め、地域の在宅医療支援に努めている。しかし、現在の神栖市内での在宅医療提供体制では、まだ需要を満たしきれていないのが現状である。

この課題に対応するため、2025年度上半期より総合診療科の常勤医を5-6名に増員し、訪問診療体制のさらなる充実を図っている。また、在宅医療に関心を持つ院内の若手病棟看護師複数名が訪問診療に同行し、病棟とは異なる現場での学びを始めている。

また、在宅医療へのハードルを下げるために、市民や医療・介護・福祉の関係者を対象とした相談窓口や必要な手続きや情報を一度に受け取ることができる「ワンストップ支援体制」のシステム構築を進めている。

これらの取り組みを通じて、在宅医療の質とアクセシビリティーの向上を目指し、地域住民に寄り添った医療サービスの提供を強化していく。引き続き、在宅医療専門研修プログラムを有する域内唯一の機能強化型在宅療養支援病院として、鹿行地域の在宅医療を牽引し、その取り組みをさらに強化していく予定である。

入院体制の拡充

入院診療実績(2025年度)

指標内容
総合診療科 入院担当患者数473名(前年度比増)

入院患者 疾患・対応区分

区分主な内容
疾患領域脳血管疾患・心血管疾患・代謝内分泌疾患・感染症 等 幅広く対応
入院形態緊急入院を主とし、レスパイト入院・緩和ケア入院による疼痛緩和・療養環境調整にも対応
紹介元訪問診療患者・他院からの緩和ケア依頼が増加傾向
退院支援病棟からの退院後に訪問診療へ移行する例が増加 → 地域包括ケアシステム構築に貢献

主には緊急入院の患者が対象であり、疾患も脳血管疾患系、心血管系、代謝・内分泌系、感染症等幅広く診療している。訪問診療患者の緊急入院やレスパイト入院にも対応した。また、他院からの緩和ケア依頼も増加傾向であり、末期がん患者の疼痛緩和目的、療養環境調整目的の入院も多かった。病棟からの退院支援に当科の訪問診療を利用する例も増え、神栖済生会病院の地域包括ケアシステムの構築の一助となった。2025年度の総合診療科入院担当患者数は前年度比増の473名であった。看護師の離職に伴う病院全体としての運用病床減少が大きく影響している。

緩和ケア外来

当該地区では緩和ケアを専門的に提供している外来が存在していなかった。在宅緩和ケアで培った知識を用いて、広く緩和ケアを必要としている患者・家族へ役立てる診療を行いたいと考え緩和ケア外来を開設した。現在は対外標榜を行っていないが、コンスタントに筑波大学附属病院、国際医療福祉大学成田病院、国立がんセンター中央・東病院など三次医療機関から紹介があり、外来・在宅で疼痛コントロール、意思決定支援、在宅看取りを行った。2025年度の診療を通じて、これらの3次医療機関、旭中央病院、土浦協同病院などの地域中核病院から神栖における在宅緩和ケアが実施可能な機関としての神栖済生会病院が認知されるようになってきている。

救急体制の強化

神栖済生会病院 救急・入院体制

区分内容
夜間当直総合診療科が全科当直(救急車・救急患者対応)
日中救急救急科が初期対応、総合診療科が収容・入院対応
年間救急車応需2,000台以上を2023年度以降、維持している
総合診療科 主な入院対象呼吸器系・代謝系疾患、多疾患併存高齢者の複雑事例 等

2013年度以降に生じた鹿島労災病院を中心とした近隣病院の常勤医師の大幅減少。そして、鹿島労災病院の廃院(2018年度末)、さらには土浦協同病院なめかた地域医療センターの診療体制の大幅な縮小(病床数を199床から49床に縮小、診療時間外の救急患者受け入れの休止)と、鹿行地区の医療状況は深刻化の一途をたどってきた。

これに対応すべく、筑波大学総合診療科の常勤医は2011年度から本格的に入院患者、救急患者を積極的に多く受け入れた。2021年度には、救急科医師が着任したことで、日中の救急患者の初期対応を担う体制が整い、救急患者の受け入れ数の向上とともに、初期対応から入院までがよりスムーズに行えるようになった。夜間については、引き続き総合診療科が全科当直を行い、救急車および救急患者の診療に対応。2022年度は2,365台の救急車を受け入れ、診療報酬上の地域医療体制確保加算における施設基準の達成に貢献。2023年度も引き続き、日中も救急隊からの収容要請や緊急入院に対応し、当院で対応できる2次医療の範囲で完結できる患者を受け入れている。特に総合診療科では、当院に常勤専門医のいない呼吸器系疾患、代謝系疾患、あるいは合併症を多く併発している高齢者の複雑事例などの入院患者を受け持ってきた。病院全体として年間2,000台以上の救急車応需を行っており、鹿行地域の救急病院としての機能維持に貢献している。

新型コロナウイルス感染症への対応

パンデミック中、発熱外来から休日を含めた全てのCOVID-19陽性者の診療(中等症以下の入院診療、陽性患者メディカルチェック)までを担ってきた。同時に、濵田医師が、Infection Control Doctorとしての豊富な経験を活かし、感染管理チームのリーダーおよび、院内感染対策チームの委員(副委員長、委員長と歴任)として、院内感染対策や地域のクラスター対応に参画した。第7波の2022年8月には、2つの病棟クラスター発生時に病院全体の感染管理に尽力し、病床コントロール、感染患者の治療に指導的立場として尽力した結果、クラスター発生に伴う死者を1名と最低限に抑え込みつつ、同月内の短期間で収束させた。この経験を基に第8波では、鹿行地域の病院において唯一クラスターを発生させなかった病院となった。

2025年度も引き続き濵田医師が感染対策委員会の委員長を務め、地域の感染対策向上のためのカンファレンスを主導し、感染災害対策合同訓練、地域の病院間連携カンファレンスを年8回開催している。

初期研修医・専攻医教育を通した医師確保・医療の質の向上

専門医研修 実績サマリー

研修プログラム認定・資格指導医
つくば家庭医・病院総合医プログラム(関連施設)総合診療専門医/新・家庭医療専門医常勤指導医(筑波大学附属病院 基幹)
神栖在宅医療フェローシップ在宅医療専門医(日本在宅医療連合学会 施設認定)濵田修平(プログラム責任者)
病院総合診療専門研修病院総合診療専門医(日本病院総合診療医学会)濵田修平(指導医資格保有)

専攻医 研修実績・予定

年度氏名プログラム状況
〜2025年度 累計計5名つくば家庭医・病院総合医プログラム全員 専門医取得済または取得予定
2025年度 修了鈴木綾香・都田佑樹同上(後期研修最終年度)専門研修課程 修了
2025年度 修了佐藤瑠美神栖在宅医療フェローシップ研修修了・在宅医療専門医試験受験予定(2026年5〜7月)
2026年度〜巴悠記神栖在宅医療フェローシップ在宅医療専攻医として専門研修開始予定

当院は、筑波大学附属病院を基幹病院とした「つくば家庭医・病院総合医プログラム」の関連施設として、総合診療専門医および日本プライマリ・ケア連合学会認定 新・家庭医療専門医の取得を目指す専攻医の受け入れを行っている。これまでにも、常勤指導医のもとで専攻医5名が研修を行い、いずれも専門医を取得ないし、取得予定である。

2025年度は鈴木綾香医師、都田佑樹医師が後期研修最終年度の研修を当院で行い、専門研修課程を修了した。

また、濵田修平をプログラム責任者とする「神栖在宅医療フェローシップ」が、日本在宅医療連合学会より施設認定されている。本プログラムで、2年間週2日の訪問診療従事を通じて在宅医療専門医の受験資格が取得可能である。当院における研修の特徴は、広範囲な診療の場を活かし、多職種とも緊密に連携しながらシームレスな医療を実践しながら学べる点である。また、地域住民・多職種・行政との協働で地域ケアの活動を行うこともできる。

在宅医療専門研修プログラム「神栖在宅医療フェローシップ」に2025年度は佐藤瑠美が専攻医として登録し、研修プログラムを修了した。2026年5-7月に予定される在宅医療専門医試験に臨む予定である。また、2026年度より巴悠記が在宅医療専攻医として専門研修を開始予定で、総合診療・家庭医療専攻医、初期研修医、医学生への指導を行いながら、自身も在宅医療の研鑽を積む予定である。

もう一つ、地方地域医療において現在注目を集めているのが、病院における総合診療である。アメリカでは「Hospitalist」という患者さんの抱える疾患について臓器毎の区別なく入院診療を担当することを専門とする医師が活躍している。日本においても日本病院総合診療医学会が「病院を中心に仕事する総合診療医=病院総合診療専門医」の養成を始めている。神栖済生会病院においては濵田が病院総合診療専門医養成のための指導医を有している。2年前に病院総合診療専門研修の専門研修施設となっており、希望者に対して研修プログラムを提供できる環境を整えている。

注)濵田が保有する指導医資格は全てで6つ。「総合診療、内科、家庭医療、在宅医療、病院総合診療、老年科」

市民・地元企業協働型の医学生教育を通した医師不足対策

本学の指導教員が、地域医療の最前線で自らも実践しながら、現場で行政、地元市民、NPO、地元企業などと協働しながら医学生に直接指導を行っている。これにより、従来の大学内だけの教育では触れる機会のなかった地域医療教育を実現。これは、医学生が将来の医師像を考えるきっかけを作り、貴重かつ必要不可欠な機会となっている。

様式第8号(第8条関係)の(2)医学生活動事業も合わせてご参照ください。

1)臨床・コミュニティケア実習(本学医学類5-6年生向け)

2025年4月-5月、2025年10月-2026年3月にのべ64名、24週間実施。

実習コーディネート業務

医学生の神栖市内における地域医療実習のコーディネート業務:実習予定調整、オリエンテーション、実習中の引率・指導・監督、実習終了後の振り返り、実習依頼施設との連絡、調整、実習振り返り、実習レポートの評価・フィードバック

具体的実習内容

医療機関および、市内の協力施設等で実習。神栖市を中心とした地域における健康課題とヘルスケア(医療・福祉など)の現状について、地域全体を俯瞰して観察し、考察(地域診断)する。また、実習レポート作成(地域診断レポート、個人レポート)、指導医との議論を通して深める。

実習協力施設

市内受け入れ医療機関(鹿嶋ハートクリニック、城之内医院、白十字総合病院)、異業種帯同実習(株式会社丸や、農業生産法人 株式会社 agri new winds (アグリニューウインズ)、FARMER’S PALLET WINDS BASE)、地域診断実習、産業医実習(AGC株式会社 鹿島工場、日本製鉄株式会社 東日本製鉄所鹿島地区)、訪問診療同行実習、訪問看護同行実習、訪問リハビリ同行実習、MSW実習、包括支援センター実習、院外調剤薬局実習等

2)早期体験型地域医療実習(本学医学類2年生向け)

神栖済生会病院における多職種帯同実習を延べ8名に実施。

ヘルスプロモーションを実践できる総合診療医の育成

コミュニティでリーダーシップを発揮することは、WONCA(世界家庭医機構)によれば、家庭医療専門医が持つべき重要なスキルの一つとされています。また、日本ヘルスプロモーション学会の常任理事を務める総合診療医が在籍していることから、その専門的な知見が十分に活かされ、神栖市では2008年より、約18年にわたるヘルスプロモーション活動を展開されてきた。この活動では、行政、生活者、患者団体、NPO、地元企業、教育機関(小・中・高校)など幅広いステークホルダーが協力し、地元のヘルスケアシステムの整備や健康課題(健康の社会的決定要因)の解決に向けて取り組んでいる。

特記すべきことは、古くから医学生の教育に市民らが参画している点である。市民が医学生教育に参画することから始まったこの協働体制は、コミュニティの社会課題に共に取り組むパートナーシップへと深化してきた。医学生教育を通じて培われた継続的な協働体制と信頼関係を基盤として、人生会議の開催、医療的ケア児等の家族・サポーターの交流の場づくり、くらしの相談室「ハッチポッチカフェ」の市内巡回など、コミュニティに根ざした市民活動が生まれている。これらの活動は学生や専攻医にとって実践的な学びの場となり、地域医療教育と市民活動が互いに高め合う好循環を生み出している。

近年では、総合診療医の重要なパートナーでもあるチーム・コミュニティナースの育成にも力を入れており、市民も参加したチームとして、地域のヘルスケアの基盤強化に貢献している。これにより、まちなかでの相互おせっかいの文化を醸成し、ワクワクや生きがい(well-being)やコミュニティにおけるケアの総量の向上を目指している。

このように経験豊富な指導医、フィールド、協働するチームのすべてが揃った恵まれた環境で、自らヘルスプロモーションを実践しながら学ぶことができる全国でも類を見ない学びの場となっている。

活動概要

神栖済生会病院コミュニティナースによる活動

堀内真弓、鴇田 美咲、溝口 暁世らにより実施。責任者:阪本直人、濵田修平。

退院後の早期再入院を防ぐための退院後訪問活動

孤立・困窮・移動困難・低ヘルスリテラシーなどの課題を持つハイリスクな困難事例に対し、病院コミュニティナースがハブとなり、地域連携やあらゆるリソースを講じて早期に介入し、重症化を防ぐチームづくりを進めている。

2026年3月時点での累計実施件数:12件

波崎診療所での声掛け(アウトリーチ)活動

2025年4月〜2026年3月の期間、毎週(金)に2名体制で実施。波崎診療所に通院中の患者さんやご家族との対話を通して、生活状況やリスク把握。
延べ接触人数:毎回5–10名。対話時間:1人あたり10分以上。

ヘルスリテラシー向上活動

2025年9月、波崎診療所で熱中症対策ワークショップ&OS-1試飲会。参加:約20名

チーム・コミュニティナース育成講座

2026年3月6日、神栖済生会病院で開催。約40名が参加。

  1. 東陽病院(千葉県山武郡)にて先駆的なコミナス活動を推進されているコミュニティナースの土屋恵利香さん、総合診療科の長谷部圭亮医師をお招きし、講演。
  2. 今年度より活動を開始した神栖済生会病院のコミュニティナースによる活動報告。

ハッチポッチカフェ(くらしの相談室)の開催

  • 2025年7月19日、はさき地域交流センター、夏祭り会場で開催。相談室訪問者数:約100名。うち握力測定:約80名、聴診体験:約20名
  • 2025年8月2日、かみす防災アリーナにてNPO法人あっとホームたかまつ主催、こどもスポーツナイトフェスティバル会場で開催。相談室訪問者数:約20名

神栖済生会病院オータムフェスタ ~市民と共創した支えあいの場づくり~

2025年10月25日、神栖済生会病院で開催。

本イベント全体の運営、そして、コミュニティナースの取り組み紹介ブースを出展し、実績展示を行った。また、学生団体のサポートも実施した。

特記すべきことは、筑波大学からは医学生、看護学生、そして他大学からは国際医療福祉大学、千葉大学、北里大学の医学生、さらには城西国際大学の薬学生、そして研修医など19名ものメンバーと協働して実施できたことである。

市民らとの意見交換会

2025年10月25日、Hasaki Baseで開催。

筑波大学や全国から神栖や地域での活動に関心を持つ医療系学生が19名参加。神栖市の実習受け入れメンバーなどで、孤立対策などについて意見交換。特筆すべきは、筑波大学からは医学生、看護学生、そして他大学からは国際医療福祉大学、千葉大学、北里大学の医学生、さらには城西国際大学の薬学生、そして研修医などが参加したことである。

全国医療系学生向け合宿

  • 2025年7月5日、コワーキングスペース「みちくさ」で開催。筑波大学のみならず、名古屋大学、城西国際大学など全国から集まった看護、薬学、医学生の約10名が、地元の中学生や高校生と交流する企画を学生たちと一緒に企画。この企画は、地元の中・高校生へ、神栖市の地域医療の魅力を伝えるとともに、医療系学生との交流を通して、若い世代にヘルスケア分野のキャリアを考えるきっかけづくりをねらいとして実施した。
  • 2026年2月7日〜8日、恵日山 長照寺で開催。筑波大学、北里大学の医学生、初期研修医・総合診療の専攻医、小学生、社会人の計11名、そして、神栖市民約20名が参加。寺院と協働するこれからの地域ケアの形を検討すべく、住民や医学生を交えた議論で深め、神栖市が直面するヘルスケア課題に対する、今後の活動計画立案ワークショップを実施した。

5.研究活動

開発研究

神栖市における地域課題を解決するため、対話型AIエージェントを活用した生活習慣、とくに飲酒習慣の改善支援に関する開発研究を進めている。社会的な背景としては、特にアルコールの使用に関する問題が挙げられる。例えば、神栖市の特定健診受診者を対象とした調査では、「毎日飲酒」が25.1%、また「1日3合以上飲酒」が5.9%となっており、どちらも国や県の平均より高いことが問題となっている(神栖市国民健康保険 第3期 データヘルス計画、第4期 特定健康診査等実施計画)。さらに、神栖市における女性の「毎日飲酒」の割合も年々増加しており、これも大きな課題である(令和3年度データ、第3次健康かみす21プランより)。

一方で、これら生活習慣病への継続的な支援に必要な医療従事者の数は不足しており、アルコール指導には専門的な対応が必要なため、十分な支援を継続して提供できていないのが現状である。そこで、医療従事者の判断や対話のプロセスを取り入れた「生活習慣改善AI対話支援アプリ」を開発し、導入段階から専門職による対人面談までをつなぐ新しい継続支援モデルの構築を目指している。

このアプリの開発はすでに実用段階に達しており、2026年には神栖市の特定健康診査の会場などで案内し、神栖市民に広く利用してもらう予定である。

研究成果

原著論文(英文)

  1. Sun Y, Goto R, Hamano J, Nin S, Masumoto S, Kajikawa N, Inaba T, Hamada S, Kimura N, Fukai S, Ishii M, Kawasaki T, Maeno T. Changes in Characteristics and Outcomes of Newly Initiated Physician-Led Home Visit Care Before and During the Coronavirus Disease 2019 Pandemic: A Multicenter Retrospective Study in Japan. J Prim Care Community Health. 2025 Jan-Dec;16:21501319251354832.
  2. Iwata H, Kaneko M, Kamada K, Endo K, Honda Y, Homma Y, Wakabayashi T, Kanto K, Nagai Y, Hamada S, Saito T, Aoki T. Early prediction model for antibiotic treatment failure in bacteraemia: Japan bacteremia inpatient cohort association. J Hosp Infect. 2026 Feb;168:194-202. doi: 10.1016/j.jhin.2025.11.031. Epub 2025 Dec 2.

総説(和文)

  1. 山口 芳子, 濱田 修平, 緒方 剛 保健所との連携による病院・施設への支援 日本環境感染学会誌 40 (6):276─280, 2025

学会発表

  • 阪本直人、高屋敷明由美、鈴木將玄、濱田修平、矢澤亜季、山本司、前野哲博:健康情報をどう見極めるか。~市民を対象にした全国Web調査結果~.第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,2025年6月
  • 山本司、高屋敷明由美、阪本直人濱田修平、矢澤亜季、鈴木將玄、前野哲博:うつ病患者への偏見やうつ病の認識に関する実態調査.第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,札幌,2025年6月20日
  • 高屋敷明由美、阪本直人濱田修平、矢澤亜季、山本司、鈴木將玄、前野哲博:日本語版HLS-Q12を用いたヘルスリテラシーに関するインターネット調査.第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,札幌,2025年6月20日
  • 濱田修平阪本直人、高屋敷明由美、山本司、矢澤亜季、鈴木將玄、前野哲博:コロナ禍後における住民の「かぜ」に対する受療行動と疾患・セルフケア知識との関連.第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,札幌,2025年6月20日
  • 山本司、阪本直人、古幡保之、地場凜々子、結城舞、田中さくら、鈴木颯斗、前野哲博:一つの地域に継続的に関わることの意義~茨城県神栖市~.第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,札幌,2025年6月
  • 島津里沙,岩瀬 翔,大谷理歩,杉本 慈,橋本麻里奈,上西 凜太郎,大井 礼美,宮下 采子,相京 辰樹,山本司,榎本 侑生,阪本 直人, 奥 知久:地域診断企画が学生・住民・遠隔参加者に与えた効果と企画を通して得た学び ~ちいここ×式根島~.第15回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,静岡県,2024年6月
  • 海野彩花、結城舞、山本司、阪本直人、後藤亮平、前島拓矢:住民とともに地域医療を考える場づくり ~茨城県神栖市の企画に参画した学生の実践報告~.第4回日本地域医療学会学術集会,新潟,2025年10月
  • 竹尾七空、結城舞、山本司、地場凜々子、越智向日葵、丸林萌花、大家健生、佐藤礼優、大峯いろは、阪本直人、孫瑜、後藤亮平、前野哲博:神栖済生会病院オータムフェスタで企画したブースを通じて学生が学んだこと.第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会,札幌,2025年6月
  • 阪本直人:「神栖市での地域実習の事例紹介。医療者と市民との共創による地域医療実習」.フィールド教育ワークショップ 人類学と医学教育の対話,日本文化人類学会第59回研究大会(つくば),2025年6月

書籍・その他

受賞

  • 阪本直人、石村珠美、濵田修平:日本在宅ケア学会 在宅ケア イノベーション大賞「ICTを活用した在宅ケア全職種間での情報共有、チーム・コミュニティナースの育成を通して、暮らしから医療までのシームレスな連携」,2025年9月
  • 阪本直人:学生と住民がともにつくる未来のまち〜17年間の”おせっかい”が広げた神栖のつながり〜.(株)CNC主催GOODおせっかいAWARD2025の30選に選出,2025年11月

書籍

  • 鈴木美奈子、福田洋、阪本直人(編):みんなのヘルスプロモーション ~私たちの健康はみんなとつくる~.弘文堂,東京,2025年12月
  • 阪本直人、堀内真弓、諏訪彩華:第4章くらしの場のヘルスプロモーション「2.コミュニティナースとコミュニティの連携※」,みんなのヘルスプロモーション ~私たちの健康はみんなとつくる~,弘文堂,東京,2025年12月
    ※神栖市で長年行われてきたヘルスプロモーション活動が紹介されています。

作品

  • 阪本直人:「住民協働で共に成長する神栖市の医学生教育」映像出品・展示.第56回医家美術展(茨城県医師会 茨城医科美術展),水戸市民会館,2025年7月

記事

  • 阪本直人:つながりとウェルビーイングを上げる空間づくり(茨城県神栖市).(株)CNC「Community Nurse」,2025年9月15日

2026年度にむけて

2026年度は、上半期は濵田医師、巴医師、都田医師が引き続き診療に当たり、新たに久田和佳医師、平岡壮磨医師が後期研修医として赴任し、常勤医5名体制となる予定である。下半期は久田医師と入れ替わりで東京医大茨城医療センターより総合診療・家庭医療専攻医が1名赴任予定である。

今後も引き続き、救急・病棟や在宅医療の診療体制の充実に取り組み、若手医師にとって魅力ある研修環境の整備を進めていく。そして、さらなる発展を目指し、中小企業に勤める労働者の健康診断データを活用したコホート研究や、コミュニティナースの活動を取り入れた病院改革・コミュニティケアの推進にも力を入れ、神栖市民の皆様にその成果を還元できるよう研究も進める予定である。

特にコミュニティケアについては、積極的に展開していく方針である。神栖済生会病院では、これまで済生会ソーシャルインクルージョン推進計画の事業費を活用し、独自でコミュニティナースの雇用や育成を行ってきた。今後はこの取り組みをさらに強化する計画である。この取り組みによって、看護師に多様な働き方を提案し、意欲ある人材の採用を促進することで、医療体制の維持や強化につながると考えている。

また、コミュニティナースとの協働によって、これまで医療が届かなかった対象者へのアウトリーチを強化し、ケアの総量を増加させ、地域に根ざした活動をさらに加速させる。

こうした研修や研究の環境を作り出すことで、総合診療医に限らず、さまざまな分野の医師・医療職・研究者にとって魅力を感じ、赴任したくなるよう努めてゆきたい。多くの若手医師や学生が「神栖で働きたい」と思える環境を目指し、今後も取り組んでゆく。